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第二十一夜 「営業の『量』と『質』」
17時。
菊地と美里は、いつもの喫茶店で待ち合わせをしていた。
美里の座る角の席からは、比較的空いている店内全体が見渡せる。
菊地を待つ間美里は、すこし離れた席に座っていた女性二人を観察していた。
私服だけど、
あの人は絶対、どこかのお店のママだ……
「あなたね、座っているだけで
お給料がもらえると思ったら、間違いよ。
もっとちゃんと営業してくれなきゃ、困るのよ」
ママと思われる女性が、若い女のコに説教をしている。
その「ちゃんと営業」ってのが難しいんだよね……
みんなそれなりに、一生懸命。
でも、どう頑張っていいのかがわからなくて、
もがいているコが多いんだよね……
この銀座には、ただサボって、楽して稼ごうとだけ考えて働いている女性は少ないと、美里は感じていた。
「あ、美里ちゃん、ごめんごめん!
お客様から電話かかってきちゃってさ、遅くなっちゃった。
で、どう? 新人さんたち」
「どうって……どうなんだろ?
こないだホストクラブに連れて行ってみましたけど」
「そっか、それはありがとう!
あのコたち、お客様の気持ち、少しはわかったかな?」
「そうですね……
何か少し、感じてくれたみたい」
先日のエミの一件を思い浮かべ、美里はニヤリとした。
「あはは。意味深な笑いだな。
そうそう!
今日はさ、僕なりに協力できることはないかと考えてきたんだ。
これ、見て」
菊地はA4サイズの紙を机に広げた。
「下手な字でごめんね。
営業の基本の2ステップをまとめてみたんだ。
(1)一度来店してくださったお客様をリピーターにする
(2)リピーターのお客様の来店頻度&客単価を上げる
(3)それらを管理する
たぶん美里ちゃんは、今まで自然に
これを学んで実行していたと思うんだけど、
改めてまとめると、全体の流れはこういうことかな、と思ってさ。
あ、(3)は教育する側の問題ね」
「確かに、今いるお客様を女のコ同士で取りあうよりは、
一度しか来店されなかった方をリピーターにするほうが早いもんね。
で、具体的にはどういうことを指すの?」
「名刺交換をしたり、携帯の連絡先をゲットして、
とにかく連絡をする、ということだよ」
「あ! そっか!
私も新人の頃は、これさえできてなかったし。
それにしても、感覚でやっていたものを、
改めて言葉にするって、難しいですね」
美里と菊地のミーティングは1時間続いた。
18時。
美里は店に戻り、新人のコを集めてミーティングを始めた。
「さて。
今日は『営業の基本』について
すこし話すね」
集まった4人の新人ホステスたちはみな、興味津々な顔で美里の話を聞いている。
「まず最初に。
みんな『オミズの営業』って、
なんだかちょっと大変とか、
面倒だなって思ってない?」
「思ってますよー。
だって、頑張って営業しても、
ぜんぜん反応ないんですもん……」
「私も最初はそうだった。
もう、何をどう頑張ったらいいのか、
わかんなくなったり…ね。
でもね、実は、オミズの営業は簡単なのよ!
ちょっとしたコツで、すぐに売上は何倍にもなるんだから!」
「え〜? ホントですか?
何倍にもって……超大げさじゃないですかぁ」
「それが、大げさじゃないのよ。
だって、この私がそれを体験したんだもの」
・・・・・・
まず、一度しかいらしてないお客様、
顔も覚えていないようなお客様から指名をもらう方法ね。
正直、接客態度がよほどひどくなければ、
スタイルとか、衣装とかって、営業成績にはそんなに関係ないわ。
そんなことよりも、売れるための営業の仕組みを知ることが大事なの。
第一ステップは、一度しか来店されなかったお客様をリピーターにする方法。
営業で何が大事かって、簡単にいうと「量と質」なの。
量とは、連絡先の数と、そこに連絡する回数のこと。
とにかくまずは、連絡先を聞くこと。
必ず聞くこと。
連絡先の数で、売上に差がつくのよ。
よく「連絡先を交換できなかった」という話を聞くけれど、
たいていの場合、そもそも「教えてください」って言ってない場合が多いわね。
その日の来店人数にもよるけれど、1日3つは新しい連絡先をゲットしなきゃ。
次に、連絡先を聞いたら、必ずアプローチすること。
ここが絶対のポイント。
返信がなくても、顔を覚えていなくても、何年たっても、
絶対に連絡し続けること!
それができるかどうかこそが、一番大きな差になるの。
「そんな細かい営業しなくても、太客をつかめばOKでしょ?」
って思ってるコもいるかもしれないけど、
太客は、ボーナスみたいなもの。
それに頼っているようなコは、きっとすぐに潰れちゃうわね。
特に、今みたいな不景気の時は。
第二ステップは、リピーターのフォローね。
一定確率で、再来店や指名、売上につながったら、
その後はリピーターのフォローが重要でしょ?
リピーターにももちろん、メールを頻繁に送り続けること。
そうすることで、来店回数が増えるきっかけになるのよ。
お客様は誰でも必ず「特別な存在」として扱われたいもの。
そのためにはお客様の情報をストックしていくことも大切ね。
携帯のアドレス帳にメモしたりして、その方の情報を貯めていくの。
記憶なんかに頼ってちゃだめ。
きちんとデータとして管理するの。
そのデータを元に、お誕生日に感動的なサプライズなんかできたら、
お客様はすっかりあなたのファンになって、
あなたのお誕生日には数倍にして返してくれるハズ。
頑張るあなたを見て、お友達だって紹介してくれる。
そういう、素敵なサイクルができ上がるの。
・・・・・・
「美里さんはそんな簡単に言いますけど……」
「そうですよ。
そんなにうまく行くんですか……?」
「できる! 絶対に。
やり方さえわかれば、できるから!
あとは『やる、やらない』の問題よ」
・・・・・・
それと、大切なのは「営業の質」。
質っていうのは、メールなんかの文章のことね。
これは自分だけでは絶対煮詰まっちゃうはずだから、
私とか店長とかに聞いてほしいの。
そのためには、みんなが毎日誰に何件、どんなメールを送ったかを
私が具体的に把握することも重要なのよ。
私も菊地店長にそうしてもらって助かったもの。
こうすることで、この良いスパイラルを。
できるだけ早く回していけるってわけ!
わからないときは私がその都度、
具体的にやり方を見せるから、大丈夫。
私は、それが一番のサポートだと思ってる。
というわけで、ミーティングはここまで。
早速だけど、今日は何件連絡先をゲットできるか、
みんなで競争しますか!
ゲーム感覚で、楽しんでお仕事しよっ!
・・・・・・
美里は、少しづつだが、成績が伸び続けている。
新人教育を担当している手前、自分が模範でなくてはいけないと、気合いが入っているからだ。
さぁてと!
同伴に行ってきますかね!
今日の同伴のお相手は、新しくつかんだお客様。
都内でカフェを3店舗経営しているオーナーだ。
美里は、聞きたいことだらけでわくわくしていた。
(つづく)
- ★ Kaori's column ★
vol.22 ナンバーワンのコって? - 「ナンバーワン嬢って、実際、どんなコなの?」
みなさん、興味がありますよね?
私は仕事柄、毎日いろいろなお店のホステスさんにお会いして、現状の営業のやり方などをお伺いする機会が多いです。
エリアもお店のスタイルも様々ですが、まず言えることは「ナンバーワンになるのに、容姿は関係ない」ということです。
もちろん、見た目が良ければ、悪いよりも有利なのは確かです。
でも、それ以上でもなければ、それ以下でもないのです。
ほかにも、高価な衣装(和服やドレス)を着ているから売れっコになれるか?というと、そうではなく、売れているから(=金銭にゆとりがあるから)、着物が好きだから着物を着ている、ドレスが好きだからドレスをたくさん買う、というニュアンスのほうが正しいです。
接客テクニックが売れっコの条件と一般的には言われますが、これもそうでもないようです。
一般常識に欠けているコは論外ですが、ナンバーワンの中でも、口下手なコや、人見知りで緊張してしまうコなど、決して接客が上手という人ばかりとは思えません。
では一体、売れっコになるためには、何が重要なのでしょう?
共通していることは「マメさ」です。
「1日250件×毎日お客さんにメールしている」というコの話を聞いて、「大げさな(笑)」と思ったのですが、なんと! 本当にそれくらいのメールをしているのです。
そのコに続きほかにも、同じくらいの営業メールをしているコがたくさんいたのです。
また、名刺を持ち合わせていなかったり、携帯の赤外線通信ができないお客様には、白紙の名刺を用意しておいて、手書きでご記入いただき、連絡先をゲットしているコも多く見かけます。
これは、「とにかく必ず、連絡先を聞く」ということを実践しているという証。
つまり、「お客様の数=指名客の数」という意味ではなく、お客様のメールアドレスの数、という意味なのです。
そうして、たとえ返信がなくても、顔が思い出せなくても、一度しか来店したことのない方でも、営業対象として、あきらめずに連絡をし続けるのです。
正直、かなりの面倒くさがり屋で、プライベートなメールは一週間遅れで返信してしまうような私は、そのマメさの部分をシステムの力で補っていました。
それが現在の私の事業となっている【顧客管理・メール配信ツール『Legend』】の原型なのです。
返信もなく、顔も思い出せないような方へのメールは、どうしても同じような文章になりがちです。
それでもその方のお名前だけは、必ず何カ所かに入れることで、まるでその人だけに送っているかのようなメールに、近づけることができます。
私の場合、常連さんには個別でメールをするものの、それ以外のお客様へは、そのような方法で一気にシステムを使って送っていました。
そして、返信をくださった方にだけ私も返信し、お食事や同伴へとつなげるのです。
これは確率論ですから、持っているアドレス数が多ければ多いほど、反応のあるお客様の数も増える、というわけです。
ナンバーワンの必須条件は、とにかく「マメさ」。
まず今日からあなたがするべきことは、とにもかくにも「お客様の連絡先をゲットする!」&「たとえ返信がなくても、メールをし続ける」ということ!
検討を祈ります☆