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第十七夜 「熱意の温度差」—菊地店長の話—
「もしもし」
「もしもし?
あ、美里ちゃん?
菊地だけど」
「店長? あれ?
さっきまでお店にいませんでした?
どうしたんですか、電話で……」
「いやさ、ちょっと話があるんだけど
外に出てこられない?」
「えー、なんですか?
あらたまって話だなんて…怖いなぁ。
なんか、怒られるんですか、私…」
「違うよ。
いいから、ちょっと出てきて。
場所はね、7丁目の椿屋珈琲の3階席。
わかる?」
「わかりますけど…
了解でーす。
あと5分くらいしたら行きます」
菊地が美里を呼び出した理由。
それは、美里にマネジメントについて伝えたかったからだ。
菊地のいうマネジメントとは、従業員全員でお店全体を盛り上げていくための方法のこと。
この業界は、営業や接客の方法も出勤日数も、女のコの判断で決めるお店が多く、あらゆることが、個人の資質任せになってしまう。
最低限の規則はあるが、それを破ったとしても、罰金としてお給料から差し引く程度。
そのやり方が、菊地は嫌いだった。
この業界で働きだして、もう7年か——。
菊地は以前、ある外食チェーンの営業本部で働いていた。
あの時は、あの仕事が嫌で、
辞めたつもりだった…
家に帰れるのは深夜、休日出勤も多く、それでいて、給料は安い。
何より、営業マンに嫁せられるノルマにいつも追いかけられているようで、精神的にもキツい日々を過ごしていた。
けど……
今思えばアレは、正しいやり方だったのかもしれない。
少なくとも、あの仕事を経由していなかったら、
今この店で店長として働いていることは、なかっただろうな…
とはいえ、この業界に入った当初の菊地は、トラブルメーカーだった。
前職やこれまでの経験から、正しいと思うことを同僚の黒服や女のコたちに伝えていた。
しかし、そんな異業界から来た菊地を、従業員たちは冷ややかな目で見ていた。
それどころか、菊地と合わないという理由で、辞めてしまう女のコさえいた。
同僚たちからも、あからさまに距離を置かれた。
唯一の理解者は、オーナーだけだった。
「オーナー、俺、納得いかないっすよ!
俺は、店のため、女のコのためと思って、
いろいろ言っているのに、
それの何がいけないって言うんですか!?」
菊地の怒りは爆発寸前だった。
「オーナーは何とも思わないんですか!?
女のコは好き勝手に当欠するし、
男たちはミーティングすらしようとしない。
お客様からのクレームだって、しょっちゅうじゃないですか!?
こんなんで、いいんですか?
俺らはただ、適当に頭下げてりゃいいってことですか?」
閉店後オーナーに呼び出された菊地は、勢いよくまくしたてた。
「まぁ、ちょっと待て。
何もダメだなんて言ってないだろ?
マスター! 俺、ジントニックください。
お前も、とりあえずなんか飲めよ」
「じゃあ、俺もジントニックを……」
「さてと。
俺が菊地君を呼びだしたのは、
『あること』に協力をしてほしいと思ったからだ」
は?
協力?
『あること』って……?
思いがけないオーナーの言葉にしばし呆然となり、
菊地は言葉を失った——。
(つづく)
- ★ Kaori's column ★
vol.18 熱意の温度差を埋める方法 - ミーティングで熱く語っても、従業員には全然響いている様子がない!
むしろ、冷やかな目で見ていて、心理的距離が離れているようだ。
どうすれば、この想いを共感できるのか!
こんなお悩みのオーナー様、多いのではないでしょうか?
今回はいつもとちょっと視点を変えて、オーナー様向けのコラムです。
そもそも、スタッフ側とオーナーとは、違う価値観であることがほとんどです。
スタッフ側は、できるだけ楽して稼ぎたい。
オーナー側は、この事業を成功させたい、発展させたい。
そのために、オーナーにとっては、スタッフの力が必要不可欠なのです。
温度差は本来、あって当たり前のもの。
それを前提に、オーナーがやるべきことはいくつかあります。
(1)事業に対する熱い想いを持ち続けること
売上にだけこだわっても、「売上向上=オーナーの利益が増えるだけ」と、スッタフにはとらえられがちです。
そのためにも「事業に対する理念」のようなものを強く持っておく。
ここは、ブレない、流されないようにしてください。
(2)従業員と物理的に接する時間を増やすこと
何かを変えようと思ったら、まず頻繁にスタッフと直接のコミュニケーションをとる必要があります。
オーナーさんの関与が薄い店舗などは、一般的に業績があまり良くないことが多いです。
コミュニケーションをとる際は、相手の話をよく聞き、お説教にならないよう、注意が必要です。
特に、スタッフがなぜこの仕事を選択して、毎日どういう気持ちで働いているのか、将来の夢なども把握しているか否かも重要です。
「大きな組織では無理だ」というご意見(言い訳?)もあるかもしれませんが、そんなことはないです。
何千人(何万人?)の従業員を抱える酒造メーカーのトップも、何百人のマネージャーたちと、一対一で面談をする時間を寝る間を削ってつくっている、という話を聞いたことがあります。
従業員も自分たちが大事にされていることを感じ取っていることでしょう。
これは、例えば期間限定(3ヵ月単位くらい、毎日のように店舗に行く)でも効果はあると思います。
(3)自分の側近(=その理念に対する共感者)を作ること
側近としてふさわしい人物とは、オーナーの信頼がおけ、かつ営業実績などがトップ、または上位であることが望ましいです。
間違っても「今より報酬を上げる」ということだけで、側近になってくれると思い込まないことです。
お給料を上げても、信頼関係や実績が変わることはあまりありません。
(4)側近(マネージャー)に通訳してもらうこと
トップとして熱い想いを語り、一人一人との面談やコミュニケーションを増やしつつ、側近に通訳や補足をしてもらうことも大事です。
通訳とは、例えば「オーナーは数字のことを厳しく言うけれど、これは我々の責任として、やっていかなければいけないし、乗り越えるとかなりのメリットがあるよね」というように、自分たちの身近な課題として実感し、動くための指示を出せる人のことです。
(5)側近に側近を作らせる
(組織の規模にもよりますが)このようにして「組織図」が完成していきます。
(6)(戦略的には)ある短期間の目標を作り、それを達成する(させる)こと
プチ成功体験が組織をまとめ、向上心のきっかけになります。
そのためには「コレとコレを、コレだけ頑張れば達成できる」という具体的なイメージを持たせ、明確な成功ストーリーが必要不可欠です。
根性論だけで結果が出せる人は、なかなかいないですからね。
(7)(それらを)組織的に維持、管理させる仕組み作り
例えばミーティングなどで、店舗全体の数字を共有することがとても重要になってきます。
そもそもお店の売上は他人事で、なかなか興味を持つことは難しいものですし、数字だけ伝えても、何の感情の変化も起きません。
そこに、「想いの共感」や「自分の努力の結果」が含まれていて、初めて「自分ごと」になるのです。
個々の成績を発表し、優秀な人を評価するのも、横の競争意識を持たせ「頑張れば評価される」という健全なモチベーションを育成する上で、とても重要なことです。
売上だけでなく勤務態度(例えば出勤日数)なども、評価対象にすることもオススメです。
人は本来、誰でも、向上心を持っています。
「ここで頑張ることで、自分が成長でき、もっと幸せになれる!」————このように、仕事と自分の人生や夢がつながった時、さらに大きな力を発揮します。
……と、今回はちょっとビジネス書(?)みたいなテンションのコラムになってしまいましたが(笑)、オーナーの考えを知ることで、スタッフ・キャストの意識も変わり、お店全体の売上も必ずアップします!
ぜひ参考になさってみてくださいね。