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第十五夜 「いつか見た風景」
いつかの、美里のふるさとでの風景——。
美里は友だちの百合と、こんなことを話していたことがある。
高校3年生の美里。
「ねぇ、ねぇ、美里ぉ。
美里は進路どうするの?
「うーん…。
一応、大学行くけど…」
「そんなんじゃなくって、大学の先の進路!
私、英語系の学部にするか、経済学部にするか、迷ってるんだよね…。
美里は、学部どこにするの?」
「え…どこって?
東京の大学で、受かりそうなトコ」
「そっかぁ。
行きたい学部とかないの?
例えば、将来の夢のための学部、とかさ。
私は、将来海外で働きたいと思っているんだよね。
夏休みに短期留学したアメリカが、ほんと良くってさ!
海外で旦那さんもさがしちゃおうかな♪」
「そうなんだ。
私は…カフェの経営とかやってみたいけど、
そんなのいつになるかわからないし…。
とりあえず普通に就職しなくちゃだから、
就活で都合の良い学部にするよ」
美里がカフェオーナーを夢見ているのには、あるきっかけがあった。
ある日、実家の最寄り駅の近くに、カフェができた。
いつも予備校のみんながたむろしているマックとは、まったく違う雰囲気のする、オシャレなカフェだ。
美里は学校も予備校も休みの日に、ひとりでそこへ行ってみた。
テラス席には、美里のほかに大人のカップルが1組だけ。
カフェモカを飲みながら、読書をする——ただそれだけのことなのに、なんだかすごくドキドキした。
日常とは違う時を刻む空間。
少し大人な気分。
こういうのって、なんかいいな。
いつか私も、こんな癒しの空間をつくれたらいいな…
夢というにはあまりにも漠然としすぎていたが、美里はそんなことを考えていた。
東京へ来てからも、お気に入りのカフェを見つけ、そこでくつろぐ時間が、美里のストレス解消法の1つだった。
今日はお客様との約束もないし、
あのカフェに行こうっと。
リラックスをしようと考えていた日曜日、自宅近くのお気に入りのカフェで、いつものカフェモカではなく、カモミールティーを注文してみた。
天井が高く南国風のインテリアが、東京にいながらリゾート地を思わせるお店。
窓際の席に座わり、真っ白なノートとペンをカバンから取り出した。
さてと…
社会人を経験し、震災という、想像を絶する緊急事態をも経験し、そして現在のオミズの仕事…。
美里は今やっと、自分の立ち位置が見えてきたような気がしていた。
今、この仕事を一生懸命頑張ることで、
漠然としていた夢に近づけるような気がする…
どうしたら、お客様に来ていただけるのか。
どうしたら、来ていただいたお客様に、よろこんでもらえるのか。
どうしたら、よろこんでいただいたお客様に、リピートしてもらえるのか。
どうしたら、菊地店長や社長みたいに、経営・管理ができるようになれるのか。
OLの時も、オミズ一本になってからも、目の前の仕事が将来の自分に関わってくるなんて、思ってもいなかった。
「本業じゃないから、本気出してるわけじゃないし、
売れっコにならなくても別にいいもん!」
「夢のためのお金稼ぎだから、
短時間にパッと稼げればいいし!」
オミズの世界には、この仕事をやりたくてやっているわけじゃなく、事情があって今だけと割り切って働いている女のコがたくさんいる。
そういうコたちと話をしていると、美里はなんだか違和感を感じていた。
いま、その理由がやっとわかった…!
どんな仕事も、すべて繋がっているんだ!
この業界で成功するコは、どこの世界でもきっと成功する。
オミズをバカにして、いや、
できない自分への言いわけをして頑張らない人は、
どんな仕事をしてもうまくいかない人なんだ!
菊地店長やオーナーの一生懸命な横顔を思い出しながら、美里は直感的にそう思った。
私が今、やらなくちゃいけないこと。
それは「いつまでに具体的に、何をどうするか」を
考えることなんだ!
そんなことを思いながらノートに向かい、カフェを開業するまでの道のりを想像していた。
まず第一に、お金がない。
開業資金って、
いくらぐらい必要なのかな…
美里はノートに、「お金」と書いてみた。
OLの頃と比べこんなに稼いでいるのに、貯金らしい貯金は、正直なかった。
第二に、人脈がない。
誠意を持って接客をしているつもりではあったが、今のお客様とこの先も、本当に力になってくれるような人間関係が築けているかは、疑問だった。
それに、同じ夢を持てる仲間も欲しいと思った。
第三に、知識がない。
今の仕事での経験や大学で学んだ知識だけでなく、新たに勉強する必要があると感じていた。
この先、起業し成功させるためには、一体どんな知識が必要なのか。
震災で、ほとんどのものを失った人たちは今、0から出発しようとしている。
私にだって、できる!
よしっ!
オミズの仕事は、あと2年頑張ろう!
美里はワクワクする気持ちでノートを閉じた。
(つづく)
- ★ Kaori's column ★
vol.16 同伴出勤 - 同伴とは、お店に出勤する前にお客様とお食事をし、一緒に(お客様同伴で)出勤することをいいます。
同伴出勤の日は、お店の営業時間が7時半や8時からでも、8時半や9時に入店することが許されます。
お客様のお支払いする料金は、時間制のキャバクラでは一般的に「同伴料金」というものがあり、女のコの拘束時間分が店内での売上にやや上乗せされ、これは女のコの人気度の象徴にもなります。
また、銀座などのクラブでは、同伴料金というものはないようです。
同伴出勤にもいくつかパターンがあります。例をあげると…
●ダブル同伴…同じ日に二組のお客様と時間をずらして同伴をすること。
●店前(みせまえ)同伴…お店の前(ビルの下など)で同伴出勤時間の5~10分前に待ち合わせをし、飲食をせずに出勤すること。
※キャバクラでこれをやってくださる方は、よほどあなたにゾッコンor優しい方です♪
お客様側から見た同伴のメリットは、
●仕事の後、飲みに行きたいけれど、特に飲み会の予定もないし、ひとりで食事をするのはさびしいから。
●女のコと食事をしたいけれど(お店とは違う1対1の特別感を味わえるので)、でもその後出勤だから仕方がなくお店にも付き合う。
●ひとりでお店に行く、というのが恥ずかしいから、同伴で行く。
みたいな理由が、主なところでしょうか。
女のコ側からみた同伴のメリットは、
●同伴ノルマクリアのため…月ごとに決められた同伴数をクリアしないと、多額の罰金がある場合があります。
●同伴賞…月内の同伴が一定数まで到達すると、賞金がもらえる場合があります。
●成績…指名数、または売上が、確実にゲットできるため。
●遅刻…店前同伴などのように、個人的な都合で遅刻しそうな場合に、遅刻だと罰金ですが、同伴になると罰金が発生しないので、助けてもらうため(あまり褒められたものではありませんが)
●営業…濃厚(?)な1対1営業がしやすいため。
そして、お店側からみた同伴のメリットは、
●早い時間のお席が埋められる。
●女のコの営業努力の指標として分かりやすい。
と、たくさんありますね♪
また、同伴の際の服装ですが、これはかなり重要です。
私がいた銀座のお店の場合などは、一部上場企業系の方との同伴では、「ザ・ホステス」のような、ド派手な格好で待ち合わせ場所に行くと、目立ちすぎてしまって、たいてい嫌われます(笑)。
反対に、銀座で飲めるステータスを求めてお店にいらっしゃる中小企業の社長様などは、いかにもな格好を好みます。
そんな時は「俺はいい女を連れて銀座で飲んでる!」という気分を、存分に味あわせてあげましょう!
また、お店によっては、そのまますぐに接客ができるように、ドレスのまま同伴に行くことを推奨しているお店もあります。
が、一番目のようなケースではまず嫌がられますし、お食事場所の種類によっては、かなり浮いてしまい、レストランに迷惑がかかる場合もありますので、注意が必要です。
個人的に一番NGなのは、Gパンにニットなどという、ラフな格好で出かけてしまうことです。個性をアピールできていいのかもしれませんが、人気のある女性はやはり王道な、女性らしい恰好をしていることが多いので、あまり推奨できません。
連れて行っていただけるお店は、お客様ご自身で指定される場合もありますし、「どこか予約しておいて」と頼まれる場合も少なくありません。
もし「どこがいい?」と聞かれたら、その方のお財布事情を第一に考え、例えば、自腹で飲んでいる若い方などには安いお店をリクエストしたりなどの気づかいが必要です。
ちなみに…。「ダブル同伴」、私も何度か経験があります。
その場合「他の約束(先約)があるので…」なんて言ってしまうと、お客様は気分を悪くして「じゃあ、いいよ」と言われかねません。
なので「他の日だともっと都合がいいのですが…」と日程変更を促しつつ、都合がつかなそうであれば、先約があることなど絶対に告げずに時間の調整をします。
したがって、都合2食食べることになる場合もあるので、コース料理など、時間や量の調整しにくいものにならないよう、予め調査が必要です(笑)。
せっかくご馳走していただいたものを残すのは失礼ですからね(吐きながら食べたこともあります。←多分これは私だけ)。
もう一つ、今だから笑えるエピソードですが…銀座に入店してから最初の同伴で、ホテルの高級フレンチのお店にご招待いただいたことがありました。
お相手のお客様は、あまりお酒を飲まれない方だったのですが、ワインリストを差し出され、食前だからと、シャンパンを注文しました。
私は元々シャンパンが大好きだったことと、「食前酒だから、食事前に飲み終わらなければいけない」と思い込み、あっという間にほぼ一人で1本を飲み干しました。
その後、再びワインリストが差し出され、「順番としては、白だろう」と、白をボトルで注文しました。
そこでもお客様は一杯しか飲まれず、今度は「白だから、お肉料理の前に飲み終わらないといけない」と思い、一人でほぼ1本を飲み干しました。
その後……そう、ご想像通りです!
赤ワインのボトルを注文し1本飲み、出勤したら、何とハウスボトル!(ハウスボトルではほとんど売上になりませんので…)一気に酔いが回りましたが、それでもしゃんとして接客をこなした私。自分で自分を褒めたいと思います。
その1日でいろいろと勉強になりました。
●その1…営業前には、飲み過ぎるべからず! …当然ですね(^_^;)
●ハウスボトルを注文されたら、(暗黙の了解を促す目的)ややあからさまに手をつけるべからず。
ちなみに、この例でもわかるように、お客様はお金がなくてハウスボトルなのではなく、それでもいい(許される)もしくは、ボトルを入れると女のコがよろこぶ、ということを知らなくてそうしているケースもあるようです。
女のコがよろこぶ=もっと気持ちよく飲める、ということを失礼がない範囲でキャストさんの対応から、感じていただけるような工夫が必要ですね!