ハッピーレボリューション

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第七夜 「昼と夜」

美里は鼻高々だった。

月に一度の全体ミーティング。
美里は初めて「同伴賞」をゲットした。

同伴賞とは、同伴を7回以上するともらえる賞のことで、賞金額は1万円とたいしたことはないけれど、何より、ベテランのお姉さま方と並んで表彰されることが美里には嬉しかった。

でも、嬉しかったのはそれだけではない。

先日、菊地店長に教えてもらった、「何が何でもメルアドゲット」と、「お礼&お食事のお誘いメール」の効果で、美里の成績は、過去最高になっていた。
頑張ったら頑張った分だけ、すぐにお給料に反映される水商売のすごさを、初めて実感した月でもあった。


調子がいいと、モチベーションが上がる。
ロッカールームにあるランキング順に並ぶタイムカードが、「No.1」と書かれることを想像していた。今はまだ「No.4」だ。

美里より上位の3名。
ここからの成績の差はとても大きい。


「一身上の都合で退職させていただきます」

いろいろ迷いながら、インターネットで見た形式を真似て書いた退職届。

美里は、昼の仕事を辞めた。

部長との面談を終えた美里を、あやが待ち構えていた。
入社当初は仲がよかったあやだが、最近は美里がお昼休みに営業メールをしながら一人でランチをすることが多くなったこともあり、あまり絡んでいない。

「ねぇ、ねぇ、何で辞めちゃうの? 美里がいなくなったら、寂しい~」

知ってるくせに…。

美里はあやに「いろいろあってね…」とだけ、答えた。

私がキャバクラで働いてること、会社の人に言いふらしてたの、知ってるんだから…。

聞きたくないことも、自然と耳に入ってくる。
美里はそれを、同期の男の子から聞いていた。

お金に目がくらんだんじゃない。

きっかけはそうでも、それだけじゃない何か、「やりがい」のようなものを、美里はいつしか、オミズの世界に感じるようになっていた。

あやに何と言われようと、関係ないもん。
わたしはわたし。
プライドを持って仕事をすれば、それでいいんだ。


ただ、今の美里は、夜の仕事を頑張るあまりに、昼の仕事がおろそかになっている事実も否めなかった。

「このままでは、責任を全うできない」

オミズにまじめに取り組むようになってから、不思議と、昼も夜も仕事に対しての責任感を持つようになっていた。


会社に退職届を出したその夜、美里は家に帰ると真っ先にパソコンを開いた。
もともと、パソコンは得意なほうではない。
でも、美里には確かめたいことがあった。

あぁ、やっぱり!

最近3ヵ月以内に美里を指名してくれたお客様と、ご来店された回数と金額とを入力し、来店回数で並び変えてみた。

いやな予感が的中した。

なぜ、私のお客様はみんな一回限り…!?
なぜ、リピートしてくれないの?

もうすぐ入店して初めてのバースデーイベントなのに…。
このお客さんたちが来てくれないと、わたし、ほんとにヤバイよ……!!


そんなことを考えながら、眠りに就いた。

(つづく)


★ Kaori's column ★

vol.08 報奨金システムあれこれ&昼職との掛け持ち
お店から出される報奨金には、いわゆる【バック】といわれるもので、一日ごとに計算される報奨金と、月に一度の賞金のようなものの2種類があります。
【バック】は、キャバクラなどに適応されるシステムで、「ドリンクバック」「指名バック」「同伴バック」と、日々の営業の中でお給料に上乗せされるおこづかいのようなものです。

例えば「ドリンクバック」は、一杯500円~1000円と、そんなに高くはないのですが、それが例えば、「一日10席で2杯づつドリンクを飲んだ」ということになれば、500円×10席×2杯=1万円となるわけです。

そこで問題になるのが、お酒が強い女のコは20杯飲んでも平気だけれど、お酒が飲めないコは不利なのでは…?ということですが、そんなことはないのです。
大抵のお店には、ノンアルコールカクテルのようなものがあり、お客様にはあまりわからないように、きれいな色のノンアルコールカクテルを、普通のお酒っぽく出してくれるので、何杯飲んでも大丈夫なのです♪

余談ですが、私のお酒の最高記録は、事情があって、ほぼ一人でシャンパン4本あけたことがあります。
いやぁ、さすがにこれは酔いました(笑)。

指名バックや同伴バックも同様です。
自分のお客様ではなくでも、場内指名(=本指名の女のコのほかに指名するコ)や、同伴バックで稼げるので、ヘルプとしてもモチベーションが上がるわけです。

クラブの場合、同伴賞は一種のステータスのようなもので、お給料に対して金額的には大したことない(1~3万円)のですが、「表彰される」ということ自体が、モチベーションアップのもとなのです。
とはいえ、同伴賞を取るくらいに営業・活躍をしていれば、お給料自体も上がっているはずなので、上昇スパイラルですね!
 
また、銀座のクラブでは、ホステスを本職としている人が主流ですが、その他の地域、またはキャバクラでは、お昼の仕事との掛け持ちや、学生さんが今の時代とても多いです。
ただ、ちゃんと稼ごうと思うと、やはりお客様のアフター(=営業時間後の飲食やカラオケなど)にお付き合いをすることも多くなり、12時に営業が終わるクラブであっても、帰宅は2~3時。

キャバクラなどで2~3時に終わるようなお店では、朝の4~5時の帰宅になってしまうでしょう。そうなるとやはりお昼の仕事との掛け持ちは無理です。

学生さんも、学校は休みがちになってしまいます。
どちらも中途半端になってしまう、ということが私は一番悲しいことだと思うので、お昼の仕事との掛け持ちの場合、オミズの仕事が軌道に乗ってきたら、本腰を入れることをお勧めします。

学生さんも、アルバイトとはいえ、お金をいただいている以上仕事であることには変わりはないので、学校も仕事も気合いを入れて取り組んでほしいものです。