ハッピーレボリューション

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最終夜「運命の選択」へ

とうとう、店を辞める最終月がきた。
初めは、おこづかい稼ぎで始めたオミズの仕事だが、次第にやりがいを感じ、新人教育をするまでになった。


今の環境に、不満なんて何もない。
むしろ、オーナーや店長、
スタッフや、女のコたちが大好きで、お客様も大好きで……
でもこれからはもう、毎日会えなくなるんだと思うと
寂しくて寂しくて、泣きそう……



毎日、日が落ちる前からこの街にいた。
スタッフとくだらない冗談を言い合いながら、携帯メールをしているあの時間が好きだった。
営業前に、恋愛話に一喜一憂する女の子たちとの他愛もないおしゃべり。
お店が終わってから、店長への悩み相談。
お客様に連れて行っていただいた、たくさんの素敵なお食事。
アフターでよく連れて行ってもらった、バーのマスター。
いつも待ち合わせにつかっていた喫茶店……

この街のどこを見ても、思い出が落ちている。
辞めると決めるまでたくさん迷い、決めた今でも、後ろ髪引かれる思い——。

「運命というものは、本当に存在するかもしれない」
美里はそんなふうに感じていた。

この店と、大好きなスタッフたちと、なかよしになれた女のコたちと出会えたこと。
何もかも居心地のよいこの環境を、なぜ自ら去らなければいけないのか。
そう思うと、信念も揺らぎそうになる。
「もう少し、このまま続けていてもいいかな」
そう、思いたくなる。

でもこれは、自分で決めたこと。
変更してしまえば、自分への自信が揺らいでしまう。
この店で美里は、利害関係などはるかに超えた、信頼関係で結ばれた仲間と出会えた。
たとえ仕事のつながりはなくなっても、心のつながりは途絶えない、お店を辞めても交流は続く関係でいられるだろうと、美里は思っていた。

気が付けば、ウォータータワーの水が以前と同じように流れていた。
きっと、景気が戻るのはもうすぐだ。


・・・・・・


19時半の銀座。
美容室で髪をセットした女のコたちが、携帯電話を片手に早歩きで、どこかへ向かっていく。

これから向かう場所に、私は辿り着けるだろうか……

並木通りでふとネオンごしの空を見上げ、美里はため息をついた。



「おはよう、美里ちゃん!」

振り返ると、いつもと変わらない菊地店長の声がする。

よし!
あと、ひと月。
やってやろうじゃないの!


ついたため息以上の息を吸いこみ、拳を握る。


私の過去が集約されたこの一ヵ月。
私の未来を予知するこの一ヵ月。
私に待っているのは、どんな物語だろう——。




 〜 美里の手帖、最後のページより 〜


お客様へ

私をゴルフに連れて行ってくださって、ありがとうございました。
私をお食事に連れて行ってくださって、ありがとうございました。
私褒めて、励ましてくださって、ありがとうございました。
私の失敗を許してくださって、ありがとうございました。
私に「君ならできるよ」と言い続けてくださって、ありがとうございました。
私に世の中のことを教えてくださって、ありがとうございました。
私の生意気さにも、心広く接してくださって、ありがとうございました。
私に優しくしてくださって、ありがとうございました。
私に「ありがとう」とおっしゃってくださって、ありがとうございました。
私にたくさんの愛をくださって、本当にありがとうございました。


女の子、スタッフへ

私となかよくしてくれて、ありがとう。
私と遊んでくれて、ありがとう。
私を一生懸命応援してくれて、ありがとう。
私を「家族」と言ってくれて、ありがとう。
私を笑わせてくれて、ありがとう。
私が泣ける場所になってくれて、ありがとう。
私がこんなにも心をひらいて接することができた大好きな仲間、ありがとう。


オーナー、店長へ 

私を本気で叱ってくださって、ありがとうございました。
私の話を真剣に聞いてくださって、ありがとうございました。
私の家族まで心配してくださって、ありがとうございました。
私にたくさんのチャンスをくださって、ありがとうございました。
私を信じてくださって、ありがとうございました。
私に数々のノウハウを教えてくださって、ありがとうございました。
私に正直に話してくださって、ありがとうございました。
私を家族のように愛してくださって、ありがとうございました。



この業界に入る時、私は怖くて仕方がありませんでした。
待っているのは裏切りか、妬みか、割り切りか、偽りか……最初はそんなふうに考えていました。
でも今、はっきりとわかりました。

自分が真心を貫けば、相手もいつか必ず真心で返してくれる——。
銀座は「真実の街」でした。

レジェンドも、オーナーも、店長もスタッフも、お店の女のコたちも、そして、お客様も……この街は想像以上に、愛に溢れていました。

今振り返ると、この仕事を通して与えられたことがあまりにも多すぎて、胸がいっぱいになります。
こんな私に、よくしていただいて、本当にありがとうございました。

今日は最後の日。
大好きなみなさま。
今まで、ありがとうございました。

(完)


★ Kaori's column ★

最終回 人生は選択の連続
自分らしく生き、成功している人たちはみな、自分の人生を自分で「選ぶ・選ばれる」ということをしっかり意識して、人生を謳歌しています。

よく、
「自分はツキがないから上手くいかない」
「生まれつき○○だから成功できない」
「今の状況では自分の力を発揮できない」
「まわりにもっと恵まれていたら…」
そんなことばかり言っている人がいます。
心の中では、「もっと自分はできるはずなのに」と思い、隣の上手くやっている人にひそかに嫉妬したりして……。

でも、よく考えてみてください。
この状況、実はすべて「自分の選択の結果」なのです。


人生は選択の連続です。

「やる、やらない」
「今一番時間を使うべきことは何?」
「誰と親しくして、誰とは付き合わないのか?」

ほんのちょっとしたことから重大事まで、すべてあなた自身が選択しているのです。
「何も選ばずに、流れに任せた」という場合ですら、「選ばなかった」という選択をしているのです。
このような選択の結果によって、今のあなた、そしてあなたを取り巻く状況があるのです。

今あなたがどんな職業についていて、お給料をいくらもらっていて、どんな家に住み、どんな人たちに囲まれていて、周囲の人たちにはどう評価されているのか……など、すべてはあなたが過去にしてきた「選択の結果」なのです。
この至極当然のことに気付かずに人生を歩んでいる人たちが、実はけっこう多いのです。

まるで、自分の人生を、海の波間に漂うクラゲか何かのように思っていて、実際に波に流され、漂っているうちに人生を終えてしまう……。
でも、そんな人生って幸せでしょうか?
大切な時間も、自分らしさも、無駄づかいしているように思えてなりません。

人生は大海原のようなものだから、穏やかなときもあれば荒れ狂うときもあります。
目標にたどり着ける近道もありません。
けれども、大海原の先に目的を持って、行き先を決めて、自分の力で帆を立てて、波間を進もうとする限りは、必ず目指すところに辿りつけるのだと、私は信じています。

あなたが今、どんな理由で仕事を選んだにせよ、選んでいるという事実がある限り、目の前の仕事に全力で取り組むことこそが、あなたが人生で成功する唯一の方法なのです。


さて。
約1年間続いたこの連載も、今回が最終回です。
今までお読みいただき、ありがとうございました!
私の分身(?)「美里ちゃん」が、少しでもお役に立てましたら幸いです。

きっと『ハッピーレボリューション』を読んでくださっているあなたは、やる気もあって、ポジティブで素直な方なのでしょう☆
それだけで、今よりもっとずっと、ハッピーになれる要素をお持ちなはずです!


あなたの人生に、ハッピーなレボリューションが起こりますように☆

甲賀香織